養殖で未来の食を支える|減少する魚資源と広がる海面・陸上養殖
日本の漁業生産量は過去40年で大幅に減少しています。一方で、世界全体の漁業生産量は増加傾向にあります。その鍵となるのが「養殖」です。日本でも近年、ブリやサーモンなどの養殖が進み、輸出市場でも成長を遂げる企業が増えています。この記事では、なぜこれまで日本で養殖が広がらなかったのか、そして現在の普及を後押ししている要因について、宮崎県、鹿児島県、千葉県の養殖業者や研究者への取材を基に解説します。
沖合養殖で育つブリ:宮崎県黒瀬水産の挑戦
沖合3.5kmの海で育てられるブリ
宮崎県串間市に拠点を置く黒瀬水産では、日本最大規模のブリ養殖場を運営しています。約270基の養殖いけすを持ち、年間約200万尾のブリを出荷しています。
- いけすの特徴:
黒瀬水産の養殖いけすは海面下に沈めることが可能な「潜水型いけす」です。波の穏やかな湾内ではなく、潮流の速い沖合に設置されています。 - 沖合養殖の利点:
- 水の流れが速いため水質が良好。赤潮の発生リスクが低い。
- 強い海流で育つため、ブリの身が締まり、高品質な魚が育つ。
出荷までのプロセス
成長したブリは、防波堤内の漁場に移され、悪天候時でも出荷可能な環境で管理されます。
- 出荷の現場:
朝3時から出荷作業が始まり、通常は1日5,000~6,000尾を出荷。12月の繁忙期には2万尾を超えることもあります。
陸上で育てるサーモン:千葉県の事例
完全循環型システム
千葉県では、陸上養殖によるサーモン生産が注目されています。陸上養殖は、循環型の水質管理システムを利用し、外部環境の影響を受けずに安定した生産が可能です。
- メリット:
- 海洋汚染や天候の影響を回避できる。
- 水質や温度を細かく制御し、魚の成長を最適化。
輸出市場での展望
陸上養殖されたサーモンは、品質の高さから海外市場でも人気を集めており、日本の養殖業の新たな可能性として注目されています。
養殖が広がる背景と課題
普及の背景
- 技術の進化:
潜水型いけすや循環型陸上システムなどの革新技術が普及を後押し。 - 輸出市場の成長:
日本産養殖魚の高品質が海外市場で評価されている。 - 資源減少への対応:
天然魚資源の減少が、養殖の必要性を高めている。
養殖の課題
- コスト問題:
初期投資や運営費が高く、中小規模の事業者にとって参入障壁となる。 - 環境影響:
養殖場周辺の環境保全や廃棄物管理が課題。 - 消費者意識:
養殖魚のイメージ向上や認知拡大が必要。
養殖業がもたらす未来の可能性
地域経済の活性化
養殖業は、地域の雇用創出や経済活性化に寄与しています。黒瀬水産では地元住民を積極的に雇用し、地域と密接に連携しています。
サステナブルな食料供給
養殖は、天然資源の保護と安定供給を両立できる持続可能な方法として期待されています。
グローバル展開
日本産の高品質な養殖魚は、アジアやヨーロッパ市場で需要が高まっており、輸出拡大が見込まれています。
まとめ
日本の養殖業は、技術革新と輸出市場の成長を背景に、未来の食料供給を支える重要な役割を担っています。黒瀬水産の沖合養殖や千葉県の陸上養殖の事例は、持続可能で高品質な食料生産の可能性を示しています。今後、コスト削減や環境保全の課題を克服しながら、さらなる発展が期待されます。